うや》しい手つきで、茶碗を取って押戴いて二口飲みました。弁信法師も、お茶の手前の一手や二手は心得ているに相違なく、手振《てぶり》も鮮かに一椀の抹茶《まっちゃ》を押戴いて、口中に呷《あお》りました。
「お願いには、もう一椀を所望いたしとうござります」
お銀様はそれを喜んで、更に一椀を立てて弁信に振舞いました。
それを快く喫し終った弁信が、澄ました面《かお》を、いっそう澄ませて、
「たいそう落着いたお住居《すまい》のようでございますが、いつこれへお越しになりましたか、そうして、以前どなた様のお住居でございましたか」
「これが弁信さん、山科の光悦屋敷と申しまして、今度、わたしが引取ることになりました」
「あ、これがお話に承った光悦屋敷でございますか、そうして、居抜きのまま、そっくりあなた様がお引取りになりました、それは結構なことでございます、おめでたいことでござります」
「父が欲しいと申しましたが、わたしが引取ることになりました」
「ああ、そのお父様のことでございます、はるばる甲州路から京大阪の御見物と申すは附けたりで、実はあなた様を見たいばっかりで、おいであそばしたそうでござりまするな
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