た」
「その大体だけの受答というのが承りとうござります」
 弁信法師は小賢《こざか》しく小膝を押進ませました。

         十一

 お銀様は、それを悪く謝絶をしませんでした。かえって、快く、むしろ弁信にも渡りをつけて置いてみたいような気持で、
「父は第一に、有野の藤原の家のあとをどうするかということを、わたしに責めました、あの家の血統といっては現在わたし一人、そのわたしが、こんなような人間ですから、家の存続ということが、父の死後までの関心第一である限り、その相談――ではない、詰責《きっせき》なのです、その唯一の血筋でありながら、家をも親をも顧みない私というものを責めるのは、責めるのが本来で、責めらるるが当然です、けれども、責められたからとて、叱られたからとて、今更どうにもなる私ではないということを、父も知っている、わたしも知っている、そこで第二段の条件になりました」
「と申しますると?」
「つまり、血統唯一の本筋である私というものが、家督の権利を抛棄《ほうき》する以上は、他から養子をしても異存はあるまいな、ということでありました」
「それも道理でございます」
「無論、わたくし
前へ 次へ
全402ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング