だろう。その総領の忠蔵が寝込みを襲われて人に斬り殺されたというのは只事ではない。ほかならぬ剣術の家であって、しかも男谷信友ともある者の長子だから、相当腕に覚えがなければならないのが、おめおめと斬り殺されたとは不審の至りだ。何者が、何の恨みあってしたことか、これをくわしく知りたいものだが、この自叙伝は大ざっぱで、それにはちっとも触れていない。評定所で与力と大喧嘩をして、これを詫びさせるなどは、どういういきさつか、これもわからないが、このおやじらしい振舞だ――
[#ここから1字下げ]
「コノ年、次ノ兄ガ始メテ越後ヘ行ク故ニ留守ヲ預カッタ、ソレカラオレガ借金モ抜ケタカラ、少シズツ遊山ヲ始メタガ、仕舞イニハイロイロ馬鹿ヲヤッテ、金ヲ遣ッタカラ困ッタ、シカシ借金ハシナイヨウニシタ、林町ノ兄ガ帰ッタカラ、留守ノウチノコトヲ書附デ出シテヤッタラ悦ンデ居タ、コノ年、従弟《いとこ》ノ竹内平右衛門ガ娘ヲ、オレノ実娘ニシテ六合忠五郎ト云ウ三百俵ノ男ヘヨメニヤッタ、忠五郎ハモトヨリ弟子故、縁者ニナッタ、竹内ノ惣領三平ガ此年御番入リヲシ、カタクルシクテ出勤ガ出来ヌカラ、御断ワリヲ申シテ引クト云ウカラ、オレガイロ
前へ
次へ
全402ページ中347ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング