構えは、平家建の低い作りではあって、すべて光仙林のうちに没却してはいますけれども、内容の数寄《すき》を凝らしたことは一目見てもそれとわかるのであります。
光悦筆と落款《らっかん》をした六曲の屏風《びょうぶ》に、すべて秋草を描いてある。弁信には見えないながら、見る人が見ると、すべてが光悦うつしといったように出来上っている。古い構えではあるけれども、相当手入れを怠ってはいなかったらしく、寂《さび》がついて、落着いて、その一室に経机を置いたお銀様の姿を見ると、室の主として、これもしっくり納まっている。
「林主様《りんしゅさま》、弁信法師が参りました」
「あ、そうですか」
とお銀様は、しとやかな言葉で、この法師を待受けました。
「お嬢様、弁信でございますが、はからぬところでお目にかかります」
「友造どんは、どうしました」
それを不破の関守氏が引きとって、
「あれも一緒に、無事これへ着きましたが、食事を済ませまして、とりあえず弁信殿だけをつれて参りました」
「弁信さん、そこへお坐りなさい、そうして今晩は、ゆっくりあなたと話がしたい」
「いずれ、急がぬ身でございますから」
「では、拙者に於ては
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