遠慮なく食い給え、米友君、君ひとつ弁信さんに給仕をして上げてな、食い給え、食い給え」
 鍋の蓋《ふた》を取って、粟《あわ》か、稗《ひえ》か、雑炊か知らないが、いずれ相当のイカモノを食わせるだろうと思ったところが、鍋の方は問題にしないで、黒漆の一升も入りそうなお櫃《ひつ》をついと二人の方へ突き出したものだから、米友が、この時も小首をヒネりました。
 お膳の上を見直すと、小肴《こざかな》もある、焼鳥もある、汁椀も、香の物も、一通り備わっているのだが、はて、早い手廻しだなあと、いよいよ感心しているうちに、
「さて、食事が済んだら、弁信殿は女王様がお待兼ねだから、あちらの母屋《おもや》へ行き給え、米友君はここに留まって、拙者と夜もすがら炉辺の物語り」
 さては女王様、即ちお銀様もここに来ているのか――いずれも熟しきった一味の仲間でありながら、米友はここにも、化け物が先廻りをしている、ドレもこれも化け物だらけという気分で、おのずから舌を捲きました。
 自分がドノくらいの程度の化け物だか、そのことは考えずに……

         十

 やがて弁信法師だけが案内を受けた、この屋敷の母屋というべき
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