もに足が地についている。決して、妖でもなければ怪でもない。弁信が先に立って、米友が後ろについて、二人連れでここまで来たのですが、今ぞ鳴くらん望月《もちづき》の、関の清水を打越えても、これやこの行くも帰るも、蝉丸の社をくぐって来ても、二人ともに口を利《き》かなかったものですから、寒山拾得の出来損いだろうなんぞと悪口を叩かれるので、最初から、弁信、米友でございと名乗ってしまえば、お馴染《なじみ》は極めて多い。
人によっては歓迎をしない限りはないのに、物々しく、無言の行をつづけて来たものですから、人が、なあーんだと呆《あき》れてしまう。
それのみではない、この二人のいでたちが、今晩は少し変っているのであります。
二
どう変っているかと言えば、今晩は弁信が笠をかぶっている。墨染の法衣《ころも》は変らないけれども、今日まで弁信という坊主は、旅をするに、全く笠をかぶらなかった坊主です。一つには、笠をかぶると、頭高《かしらだか》に負いなした生活のたつきの琵琶の天神がつかえる、その故障のために、よんどころなく、かぶり物を廃していたのかも知れないが、もう一つには、その自慢(!
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