障子のかげから、こっちへ姿を現わしたその人は、思いきや、関守には関守だけれども、不破の関守氏でありました。
九
不破の関守氏ならば、米友も旧識どころではない、つい近ごろまで、胆吹の山寨《さんさい》で同じ釜の飯を食っていた宰領なのですから、なあんだ、それならそれと言えばいいにと、少し苦い顔をしていました。
しかし、米友としては、向うでお化けに逢って、それを突き抜けて来たら、またここで同じお化けに出逢ったような気持で、出し抜かれた上に、先廻りをされて、ばあーっと言われたような感じがしないでもありません。
だが、そういうことは、弁信が先刻心得面であるから、米友はまず提灯をふき消すだけの役目をすると、人をそらさない関守氏は、
「友造君、よく無事で見えられたな」
と、弁信に対すると同一の会釈を賜わりました。ただ一方には弁信殿とかぶせたのに、今度は友造君と前置きをしただけの相違で、あとの会釈は一字一句も違わない音声と語調でありましたから、米友も納得しました。もし、これがいささかでも相違して、弁信に対しては客分、米友に対しては従者あつかいの待遇でもしようものなら、この男
前へ
次へ
全402ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング