として、相当不快な感情を表わしたに相違ないが、その辺の呼吸は心得たもので、関守氏は一視同仁の会釈を賜わったのみならず、弁信を招ずるが如く米友をも招じ、二人ともに無事このところへ安着を賀する心持に優り劣りはなく、果ては二人のために洗足《すすぎ》の水まで取ってそなえてくれるもてなしぶりに、弁信はともかく、米友はいたく満足の意を表しました。
 そもそも、この人と、それから青嵐居士との二人に助けられて、農奴として斬らるべき運命の身を救《たす》けられて、多景島までかくまわれ、ここで弁信に托して一命の安全を期し得たのは、つい先日のこと。
 してみれば、二人をまたあの島から、この谷へ移動させるまでに肝煎《きもいり》をしていてくれたのもまたこの人、親切であって、ちょっとの抜りもない人だが、しかし、その親切ぶりと、抜りなさ加減に多少、気味の悪いところもある。あまりに抜身の手際があざやかなものだから、米友としては、いささか化け物を見るような感がないではない。
 やがて、不破の関守氏は二人を炉辺に招じて、ふつふつと湯気を吐きつつある鍋の前に坐らせました。無論、自分もその一方の、熊の皮か何かを敷いた一席に座を
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