交わせの笠を手に振りながら、姿の見えなくなるまで、さらばさらばと振返り振返り別れました。
別れた後、兵馬は、この好青年にあらぬ使命を持たせたものだ、福井へいたりついて、尋ねる主を発見した時、この青年の驚異のほどが思われる。驚異はいいが、からかわれたと憤慨して、相手に当り散らされても困る。だが、あんな磊落《らいらく》な青年だから、相手が相手と知っても、一時はおやと驚くかも知れないが、すぐに打ちとけてしまって、さっぱりとあれを渡して、あの女からお礼に御馳走でもされて、かえって痛み入るというところだろう――とにかく、兵馬としては座興でもなし、遊戯気分でもなし、無邪気の青年をからかうような気分は少しもなく、むしろ、何か一片の真情が、脈々として心琴をうつものがある。
「忘れられない」
うつつ心に、こう言って、近江へ下る足がたどたどしい。
ほどなく近江へ出て、中の郷、木の本、はや見から長浜へ――長浜へ来て、兵馬は計らずも見のがせないものを認めてしまいました。
それは、長浜の岸を飛ぶ一人の急飛脚――ただの飛脚ならばなんでもないが、その足どり、身のこなし、たしかに見覚えのある、それは、がんりき
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