ところによりますと、胆吹の開墾王国の中には、すばらしい語学の達者な人が隠れている、そのほか、あの団体の中には、世を拗《す》ねたエライ人物が隠れて加わっているという風説を聞きましたものですから、僕は故郷を飛び出して参加したんですが、どうも、僕の頭では、あの人たちの行動がよく呑込めません。しかしまあ、体力相当に、開墾の方もやれば、炭焼もやり、帳面つけなども致しましてな、留まっているうちに、その英学の方は、御当人は出来ないけれども、いい先生を紹介してやると言ってくれた先輩がありましてな、その人から紹介状をもらいました。その先生は江戸におられるのです、当時、英学にかけては、その右に出でる人はあるまいとのことですが、なんにしても身分が旗本のいいところですから、なかなか入門がかなうかどうか、面会すら許されるかどうかわからないが、とにかく、胆吹山の先輩に紹介状をもらいましたものですから、これからまた故郷の福井へ帰って、旅費を工面《くめん》して、江戸へ向って出直すつもりで、それで、胆吹山を立って参ったんです」
 青年は能弁に、すらすらと、問われない部分まで明快に話し出したものですから、その物語りだけで
前へ 次へ
全402ページ中280ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング