す。
「こんにちは――」
と先方が、笠をかたげてまず兵馬に挨拶をしかけましたから、兵馬も、
「やあ」
と言いました。先方は第二句をつづける代りに、兵馬の立っているすぐ足許《あしもと》へ、どっかりと腰を卸してしまい、
「幸いに、好天気ですな」
 存外、世間慣れた口の利《き》きぶり。兵馬は一見して、これは遊学の書生だと思いました。同じ書生にしても、丸山勇仙のように世間ずれがし過ぎたのではなく、相当度胸があるが、一面、極めてウブな青年だと思いました。
「ドコにおいでです」
と兵馬から尋ねられて、
「これから、越前の福井へ帰るです」
「ドコからおいで?」
「近江の胆吹山《いぶきやま》から参りました」
 越前福井へ行くというのは常道だが、胆吹山から来たというのが少し変です。
「胆吹山から――」
 兵馬も不審を持ちながら、この青年を相手に少し話して行こうと、自分も路傍のほどよき木の根に腰を卸して、青年と押並んで話しよい地点を保つと、青年が、
「胆吹山で、少し働いておりましたが、これからひとまず故郷の越前福井へ帰ってみようと思います」
「胆吹山で何を働いておいででした」
と兵馬がたずねたのは、最初か
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