を降参させてみたいと秘術――ではない、心づくしの限りを見せたつもりなんですけれど、あなたはついに落ちなかったわよ、えらいわねえ、ほんとにえらいのよ、あたしの腕も、面《かお》も、あなたの潔白の前に廃《すた》りましたわ。でも、男に負ける分には負けても恥にはならない、男一人を落さなければ、女の後生《ごしょう》にはなりますねえ――今晩の、あわら[#「あわら」に傍点]のお湯の宿は、もうそんないやらしいことのない、罪のない、親身の姉と弟の気分で、生涯の名残りを惜しみましょうよ。嬉しい、嬉しい、たった一晩でも、わたしは嬉しい」
 道中での思わせぶりは、多分のイヤ味もあったし、若干の真実もあって、兵馬も心得て、これに応対し、その応対そのものもまた、人生の行路の一つの修行底とも見なして、隙間なき用心のもとに、それを扱って来たから、兵馬の心にも油断はなかったけれども、今ここで、この女がムキ出しに懐かしがったり、有難がったりして、そわそわ、わくわくする心持には、女としての天真の流露もある、子供同士の気分に帰ったようなものでもあるし、それには警戒の不安もなく、いや味の禁忌もないことに動かされて、兵馬も、この女
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