そうではない、どこかで見ている! ああ、あの小粒! びっこ[#「びっこ」に傍点]を引きながら、しかも軽快に疾走するあの足どり、精悍《せいかん》な面魂《つらだましい》、グロな骨柄、どう見たって見損うはずはない。ほとんど命がけ、江州長浜の一夜の手柄にあげたが、あいつが譲らなければ、こっちが危なかった。
「あいつだ!」
 轟の源松は、そう気がつくと、ここでもまた二狼を追うわけにはいかず、一方の送られ狼にはなんら辞譲を試むることなしに、いま目の前を過ぎ去った弾丸黒子に向って、全速の馬力を以て追いかけました。
 源松が急角度の方向転換で、まっしぐらに追いかけた当の相手というのは、宇治山田の米友でありました。
 あの晩、あの小者《こもの》めをやっとの思いで手がらにかけたが、今以て善良不良ともに不明なのはあいつだ。伊勢の生れだというのに、江戸ッ子はだしの啖呵《たんか》を切るし、兇悪性無類の放浪児とばかり踏んでいたが、その啖呵をきいていると、正義観念が溌溂《はつらつ》として閃《ひらめ》くことに、源松の頭も打たれざるを得なかったが、調べの途中から、全然口を利《き》かなくなり、胸の透くような啖呵も切らなく
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