中の二人の泣き声が、いつしか、近江の、大津の宿のお豊と真三郎の姿を浮き上らせて来る。その真白い手は、僧の形に姿を変えた真三郎が、しきりに焦《あせ》って伸ばす手だ――届かない、お豊が助けて抱き上げて、背たけのつぎ足しをしてみたが、それでも届かない。そこで二人が崩折れて、よよとばかりに泣いている。
「馬鹿な奴、いくら探したって無いものは有るものか、いいかげんにあきらめて往生しろよ、毎晩毎晩そうして合奏をつづけては、下手な左官の壁塗りのような、薄っぺらなうつしえの実演をやりつづけているそうだが、塗直し、焼直しも、そうそう手が重なっては、凄くもなんともないぞ、市中では鬼頭堂の堂守まで鼻についているぞ、いまに犬も食わないことになるぞ、いいかげんに引込め、引込め」
 いや、鬼頭天王の堂守といえば、もういい年だが、あれで若い時は相当に美《よ》かったぜ、今こそ堂守で行い澄ましているが、まだ見られる色香、いや、まだ聞かれる声だった。
 鬼頭天王とは、いったい何だと反問したら、あの堂守の尼が、妙に上ずった肉声をあげて、こんなことを聞かせたぞ――
 昔、北面の武士に兵部重清《ひょうぶしげきよ》というがあって
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