近藤自身の手にかけて、その切れ味を保証した刀だ、もし虎徹でないとすれば、虎徹以上の刀だと言ってよろしい。実際、虎徹もその人を得ざれば猫徹《ねこてつ》となり、猫徹も近藤に持たせれば虎徹《とらてつ》となる、猫めが――」
近藤勇と虎猫があやになって、少しこんがらかって来る。ちょうどそこへ、庫裡《くり》の方から猫が一匹出て来たからです。寺院に猫はふさわしいようでふさわしくない、ふさわしからぬようでふさわしい、白猫が一匹出て来て、左見右見《とみこうみ》、天井の方を向いて前足をのしたかと思うと、竜之助の方へ向って、のそのそと歩いて来るのを見たから、それをカセに斎藤が、話の中へ猫を織り交ぜてみたのか、猫を織り交ぜる途端に猫が出現したのか、どちらも偶然にして因縁事がありそうに思われる。今いう通り、寺院に猫――寺院というものは葷肉《くんにく》を断つことを原則としているのだから、寺院の庫裡に養われる猫は営養が不良でなければなるまい。何を食って生きている。斎藤はこの偶然を奇なり奇なりと感じたらしく、
「貴様、猫か、猫ではあるまい、化け物だろう」
と言って、猿臂《えんぴ》をのばしてその猫をかいつかんで、己《
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