おの》れが膝の上に掻《か》きのせたままで、
「近藤に虎徹は、猫に鰹節《かつぶし》のようなものだ」
あんまり適切でもない苦しい譬喩《ひゆ》を口走っている時に、竜之助が、
「拙者も、刀が欲しい。拙者はあまり作に頓着しない方なんだが、やっぱりいい刀は持ちたいよ。それ以来、旅から旅で、腰のものにさえ定まる縁がないのだ。一本、何か周旋してくれないか、古刀には望みがない、新刀のめざましいところを一本、世話をしてくれないか」
と、人の勧誘はそっちのけにしてしまって、自分勝手の註文を持ち出したが、斎藤も好きな道と見えて、
「よろしい、何か一つ探してみよう。清麿《きよまろ》はどうだな、山浦の清麿――つまり四ツ谷正宗」
と、猫のうしなっこぞ[#「うしなっこぞ」に傍点]を持って宙につるしながら、こう言い出したところへ、遥かに次の間から、猫よりもっと不思議な生物《せいぶつ》が一つ現われました。
三十九
「モシ、こちらのお座敷へ玉《たま》が参りませんでしたか」
「あ」
と斎藤がふるえ上って、思わず手にした猫を振り放してしまった。
「おお、玉や、玉や、ここにいたかい」
入って来たものは、
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