一応筋は立った話をしている。これを遠目に睨《にら》んだだけで、直ちにうさんと眼をつけた源松の眼も高いと言わなければならない。
 これ別人ならず、よく見れば、前なる背の高い方のが南条力、後ろのやや低い方のが五十嵐甲子雄――毎々お馴染《なじみ》の二人の成れの果て――果てというにはまだ間もありそうだが、二人の変形であることは疑いがないのです。

         三十四

 この南条、五十嵐の両壮士が、ある時は志士の如く、ある時は説客の如く、ある時はスパイの如く、ある時は第五部隊の如く、全国的に要所要害を経歴して来たことは、ほぼ今までのところに隠見している。
 ついさき程は叡山四明ヶ岳の上で、大いに時事を論じていたと見たが、もう京洛《けいらく》の真中へ入り込んで、こんな行動をとっている。また油断も隙《すき》もならぬ者共です。
 しかし、今晩のような夜空に、こんな風《なり》をして、ここらを彷徨《ほうこう》するということは大なる抜かりで、早くも轟《とどろき》の源松の注視を受けたということは、大なる不覚と言わなければなりません。
 こうして二人は河原を三条の橋の橋詰まで来ましたが、橋に近くなると、
前へ 次へ
全402ページ中136ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング