相になって見給え、志士仁人になって見給え、夜の目もロクロク眠れずに、やれ国のためだ、人のためだと血眼《ちまなこ》になっている、この天与の恩恵豊かなる清風明月が来《きた》りめぐっても、火の車を見るようにしか受取れない奴等こそ憫《あわ》れむべきものだ」
「大燈とか、大応とかいう坊主が、そこらの橋の下に穴を掘って、そこを宿として園林堂閣へ帰りたがらなかったというが、それはわれとスネたんではないな、そういう生活がむしろ自然なんだから、彼等はそれを貪《むさぼ》り好んで生きている、世間の馬鹿共が見ると、それが、大徳の、達観のと渇仰《かつごう》する、見方が違っているんだ」
「そうだ、トモカク坊主でも大物になると横着千万なものでな、自分は楽をしていながら、世間からは難行苦行の大徳であり、人生の享楽を抛棄《ほうき》した悟道人のように見えるが、ありゃみんな道楽だね」
「まず、そんなもんじゃ、乞食の六という奴の詩に有名なのがある」
「そうだそうだ、畸人伝かなにかにあったっけ、あれだけの詩を作れるくせに乞食している横着者、まさに三十棒に価する、その詩を一つ……」
一人が、そこで、詩を吟じ出してしまいました。
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