戦略から言っても、外交から見ても、策の得たるものでないことがわかるから、そこで、前門の狼とは暫く妥協を試みて置いて、下流の乞食から退治にかかろうとする魂胆であるらしい。
そう言いっぱなしにして、相手の返答は聞かず、早くも橋の袂《たもと》をめぐって、河原をひた走りに走りました。もちろん、めざすところの目的は、月夜のお菰《こも》の川渡りであります。彼等の二個のお菰は、斯様《かよう》な鼻利きのすばらしい猟犬に嗅ぎつけられた運命のほどを知るや知らずや、悠々閑々として、月夜に布袋《ほてい》の川渡りを試みて、誰はばかろうとはしていない。いい度胸です。でなければのほほんの無神経です。
且つまた、橋の上に取残された狼にしてからが、頼みも頼まれもしない藪《やぶ》から棒の送り狼に、待っていてくれと注文されて、その注文どおり、馬鹿な面をして待っていてやる義務もあるまいではないか。
三十三
一方、視野を転換して、のんきな月夜の川渡りの二人のお菰さんの身の上に及ぶ。
二人とも、いい図体をした屈強の男ざかりでありながら、ドコぞ箍《たが》がゆるんでいればこそ、今日こうして菰をまとってい
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