こね》よ」
「雑魚寝って?」
このやからも雑魚寝を知らないはずはあるまい。だが、遊ぶことは好きだし、ひどい骨折りをせずに寝て遊ぶように教育される雛妓は、寝ることを怖れずに喜んでいるらしい。
まもなく、仲居おちょぼ連の活躍がはじまり、幾枚かの夜具がこの座敷へ持込まれると、さきの爛酔の客のまわりだけを少々残して、ほとんどこの座敷いっぱいの面積に夜具が展開されました。
そうすると村正どんが、仲居のねえはんを呼んで、
「大儀だが、肴《さかな》をこれへひとつ運んでもらいたい。肴といっても、飲み手はいないから、甘いものをおごってくれ、ようかん、餅菓子、今川焼、ぼったら焼、今坂、お薯《いも》、何でもよろしい、山の如く甘いものを買い集めて、これへ持参するように」
と言いつけました。
この景物は、よほど一座の人気を呼んだらしい。さすがに手を出してガツガツはしないが、みんな面を見合わせて嬉しそうな色を見せる。
それをみると、村正どんは寝巻に着替えもせずに、ごろりと夜具の真中に横になって、
「おじさんは男だから、身ぐるみこのままで寝るが、お前たちは襦袢《じゅばん》一枚になって、ここへおじさんを真中
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