生酔いの擬勢をして見せるのではなく、当人は昏々《こんこん》として夢かうつつかの境にいるらしいが、それにしても、眼をつぶったきりで、こちらを眼中に置かないのが、やっぱりキザであり、癪《しゃく》であると村正さんも、きわどい間に始終それを気にしておりました。
さて、こうなってみると、遊ばざるを得ない。こうあしらわれてみると、イヤでもここで遊ばせざるを得ないことに立ちいたりましたが、そこは、村正どんも一種の通客だから、このまま遊ぶのは遊ばれるようなもので、見たところ、喧嘩の相手にはしたくない代物《しろもの》だが、遊びながらからかってやる分には、どうしようもあるまい、また、そうでもして、こいつを少しムセっぽい思いでもさせてやらないことには腹が癒《い》えない。村正どんも、そんなような仕返し気分がやや働いたものですから、舞子たちに集まれの令を下して、
「さあ、これから一遊び、みんな思いきって面白く遊ぶのだよ、それには、こうしていては遊べないから、みんなして寝ながら遊ぶのだ、女中さんに頼んで、ここへお蒲団《ふとん》を敷いておもらい」
「ここへ寝《やす》むの?」
「みんな一緒に?」
「ああ、雑魚寝《ざ
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