にして、仲よく枕を並べてお寝み――」
「はい、お寝みなさい」
「お寝みなさい」
言われた通りに彼等は、きゃっきゃっと言いながら帯をとり、上着をとって、襦袢一枚になって、はしゃぎ廻っている。
この連中は、ある程度までは客の言うなり次第になるべく仕込まれてもいるし、また、身の防衛本能から言っても、命から二代目の衣装飾りというものを犠牲にして、ゴロ寝をするようなぶしつけはない。
割信夫《わりしのぶ》、針打《はりうち》、花簪《はなかんざし》の舞子はん十何人、厚板、金入り繻珍《しゅちん》の帯を外《はず》し、大振袖の友禅を脱いで、真赤な襦袢一枚になって、はしゃぎ廻っている光景は、立田の秋の錦と言おうか、吉野の花の筏《いかだ》と言おうか、見た目もあやに、高嶺《たかね》の花とは違ったながめがある。
さすがに村正《むらまさ》どん、その風情《ふぜい》を興がって、眼を細くして、前の酔客の形を真似《まね》でもしたように仰向けになってながめ廻していたが、さて、どんなものだと、壁際へ避けた件《くだん》の酔客の姿を見ると、相変らず長身を延ばしたっきり、肱杖《ひじづえ》をついて、じっとこっちを見ているにはいる
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