込んで来たものの、ようやく岸へ辿《たど》り着いた時分には、ここで一番焚火でもして身を温めてやらぬことには慄《ふる》え上ってものの用には立つまい――と内々|藁火《わらび》の用意まで心がけて待構えていると、岸へ上った右の裸男は、そこで頭上の衣類を取卸すと共に、その中から手拭ようのものを引張り出して、ゴシゴシと身体を拭い出した様子を見ると、別段、慄えても凍えてもいないようです。
それから衣類を解きにかかって一着に及びました。帯も極めて無雑作《むぞうさ》に引締めて、その次に袴《はかま》を穿《は》きにかかりました。袴を穿き出した時に、取詰めに行った法螺の貝の手勢が、また少しばかり動揺して、
「あ、裃《かみしも》を着ていやがるぞ!」
裃ではない、袴だけです。その袴とても、彼等が見てこそ裃だが、田山白雲あたりが見たのでは、あんまり感心した袴ではないのです。縞目《しまめ》のところは更にわからない、地質の点も不明なのですが、一見してわかるのは、その桁丈《ゆきたけ》の極めて短いということだけです。
さて、この短い袴をつけてから、次に長い刀を取り上げて腰に差しました。
四
その
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