大菩薩峠
恐山の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)渡頭《わたしば》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)相当|喧噪《けんそう》な

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+卒」、第3水準1−15−7]
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         一

 田山白雲は北上川の渡頭《わたしば》に立って、渡し舟の出るのを待兼ねている。
 舟の出発を待侘《まちわ》びるものは田山白雲一人ではなく、士農工商が一人二人と渡頭へ集まってひっかかる。こちらの岸もそうだから、向うの岸も同様に、土農工商がせき留められて、舟を待つ人の数は増すばかりです。
 田山白雲は焦《じれ》ったがりながら、渡頭に近い高さ三メートルばかりの小丘の上で、遠眼鏡を眼窩《がんか》の上から離さず、マドロスの逃げ込んだ追波《おっぱ》の本流の方をしきりに注視していましたが、そのうちに、向う岸の渡頭に集まって舟を待侘びる士農工商の群れが、急に動揺をはじめたような模様が見えます。同時にその舟待
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