来た通りをあとへ戻させればいいのだ」
と言って、マドロスの方へ向き直って、物々しく白雲が言って聞かせることには、
「よし、では、ともかく貴様の縄だけは解いてやるから、舟を漕いでかえれ、先方へ着いての上で駒井氏の裁断だ、拙者は許すとも許さんとも言えん――とにかく、舟を漕ぐ間は縄をゆるめてやる――ゆるめてはやるが、こっちを甘く見るときかんぞ。いいか、途中で隙を見て、海へ飛び込んで逃げ出そうなどとしても駄目だぞ。いいか、この柳田君はな、なりかたちこそ小さいが、恐《こわ》いものを持っているぞ、これ見ろ、この長い刀をよく見ろ、伊達に差しているのではないぞ、抜けるのだぞ、抜けば斬るのだぞ、貴様のようなでぶ[#「でぶ」に傍点]といえども、芋を切るように真二つにこの刀で人が斬れるのだぞ、この人のなりかたちが小さいからって呑んでかかっちゃいかんぞよ。もし貴様が途中、穏かならぬ気振《けぶり》でもしようものなら、その瞬間に、そのでぶ[#「でぶ」に傍点]を二つに斬られてしまうのだ、おどかしではない、事実を言うのだ、よく見て置かっしゃい、あの長いのを――」
田山白雲は、改めて柳田平治を、裏返し表返してマドロス
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