スが、急に哀願の体《てい》で、
「田山先生、ワタクシ、悪イトコロアヤマルデス、縄、解イテ下サイ」
それを耳にも入れず田山白雲は、柳田平治をさし招いて言いました、
「柳田君――ではこれからを君に引渡すから頼みますよ」
「承知しました」
「マドロス」
と、白雲が改めてマドロスを呼びかけると、
「ハイ」
神妙な返答です。
「貴様を、これからこの人に託して、月ノ浦の駒井氏の元船まで送り届けるのだ、じたばたしないでおとなしく引かれて行けよ」
「御免、御免」
マドロスは、また哀号の声を高くして、
「御免、船ヘ戻ルコト、オ許シ下サイ、船ヘ戻レバ殺サレルデス」
「柳田君、かまわず引き立てて行ってくれ給え、もしジタバタした時は、今の鶴見流でやっつけてかまわない」
「御免、御免」
「萌さん――」
兵部の娘を白雲は呼びかけて、そうして、
「あなたも、この人に――柳田さんという方だ――この方に送られて、一緒に駒井先生の許《もと》へお帰りなさい。途中、逃げようとしても、もういけませんぞ。見給え、柳田君の差しているあの長い刀を、あれは抜ける刀なのだぞ」
二十九
それから、田山白雲は
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