込まれてから、銚子の黒灰の素人相撲《しろうとずもう》では連戦連勝を、またこの白雲の助言によって土をつけられてしまった。
他の何者に対しても、かなりの横着と粘液性を発揮するのですが、ひとり白雲に遭うてはすくんでしまう。
それに今日は、柳田という、超誂向きの助手があってすることだから、マドロスは身動きもできないし、グウの音も出ない目に逢って、たちまちそこへ縛りつけられると共に、みえも、飾りも、全く手放しで号泣をはじめました。そうした時に、意外にも、その間へ押隔たったのは兵部の娘でありました。
「田山先生、あんまり手荒いことはしないで頂戴ね」
「うむ、萌《もゆる》さん――君もいったい心がけがよくない」
と白雲は、押隔たる娘の面《かお》を浅ましげにながめて、たしなめると、
「マドロスさん、そんなに悪い人じゃありません、手荒いことしないでね」
「君を掠奪して、こんなところへ連れ込んだ不埒千万《ふらちせんばん》な奴じゃないか」
「いいえ、マドロスさんばかりが悪いんじゃないのよ」
「無論、君にも責任があるよ、何というだらしないこった、歯痒《はがゆ》くってたまらない」
その時、号泣していたマドロ
前へ
次へ
全551ページ中76ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング