なるほど、風に流れてかすかに物の音が響いて来るよ」
自分は眼に於て早く、柳田は耳に於て一歩を先んじていたらしい認識が、ここで両々相保証するの立場となりました。
「では、とりあえず、あれを目的《めあて》として少し急いでみようではないか」
と白雲がまず唱えて、柳田がそれに従いました。そこで少し二人は歩行《あゆみ》を早めて、火と音との遥かなる一角に向って歩み出しましたが、何をいうにも、白雲は大男であり、柳田は小男ですから、コンパスの相違が少々ある。
白雲は柳田に調子を合わせてやるために、多少ともその歩調をおろさざるを得ませんでした。
かくて行くうちに、ふと前に白い鏡のようなものの大きな展開を見ました。
「やあ、池ですか」
「沼だ――入江かも知れない」
このまま進めば、必ずその沼に突入する。
二十四
白雲がまず眼を以て認め得たところのものも誤りなく、柳田が耳を以て捉《とら》え得たところのものにも間違いがなかったことは、二人が進み行くほどに、ようやく明確に証拠立てられました。
突当りに沼があって、その向うに小高い岸があって、その一方に森があって、その森蔭から右の
前へ
次へ
全551ページ中64ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング