りますが、貴老に至っては、もはや、せっかく御奇特の儀お見届け申したるにより、残らずお目にかけようと思いますが、何を申すも、夜分ではやむを得ないによって、明朝に至って、ゆっくり御案内を申し上げる、まず今晩は、むさくるしけれど、当屋へ御一泊あってはいかがでござる」
 こうまで言われて、辞退するような道庵ではありませんでした。
 道庵を一室に寝《やす》ませた青嵐は、また炉辺に寄って来て、燈を剪《き》って、ひとり書物をひもどきはじめました。何の書物をか、青嵐がしきりに読み耽《ふけ》っている一方、早くも熟睡に落ちた道庵の鼾《いびき》の音が高い。
 かくて湖上湖畔の夜は更けて行く。まさに書を読み、茶を煮るに堪えたる好夜だが、米友の行方だけが、少々気がかりにならぬではない。

         百九十四

 だが、それも案ずるほどのことはない、宇治山田の米友は、今、確実に湖畔の町の夜を歩いている。
 夜といっても、それは月の何日に位するかは明瞭でないとしても、お銀様が胆吹の山をそぞろにさまよい出でた時分が、繊々たる鴉黄《あおう》を仰いで出でた当分のことですから、宵にちらりと月影を見せたばかりの闇の夜
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