寛容の徳を備えた青嵐は、微笑をもってこれに対しました。
百九十二
「それは、遠路のところ、よくお訪ね下された」
と、教養があり、寛容の徳を備えた留守番が、微笑をもって返答するものですから、ここでまた道庵がいい気になり、
「わしゃあね、さいぜん、大通寺長浜別院というのをたずねてみたんだがね、思ったより宏大なる建築に驚かされましたね、京大阪なら知らぬこと、長浜なんてところに、あんな大きなお寺があるたあ、お釈迦様でも気がつくめえ、とすっかり胆を抜かれちゃいましたような次第でげす。さてまた、この次に由緒ある知善院をたずねるのだが、今度こそ胆を抜かれねえように、臍下《へそした》に落着けて、たずねて来て見ると、どうでしょう、今度はまた、あんまり見かけがケチなんで、正直のところ力負けがしてしまいましたような儀でげす」
「いや、それはそれは、せっかくの御期待にそむいて恐縮でござるが、長浜の宝生山の知善院というのは、当所のほかにはござらぬ。して、その御用向は……」
「別に、特別の御用向という次第でもござらぬが、承るところによると、御当寺には、天下無二の寺宝がおよそ五通り備えてござる
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