《はるばる》とお越しになりましたか」
「江戸の下谷に住居を致しおりましてな」
「下谷に……」
「下谷の長者町というところに巣を構えておりまして」
「ははあ、下谷の長者町……」
「道庵と申しまして」
「道庵先生と申されるか」
「道庵と申して、いやはや、安っぽい医者でげすよ」
 ここへ来て、ボロを出してしまいました。人にものをたずねて住所姓名を名乗ることは礼儀の一部分であるとしても、安っぽかろうと、高っぽかろうと、そんなことまで聞かれもしないのに口走る必要はありますまい。だが親切な青嵐浪人は、これもまた宿酔のさせる業と好意に受取って、
「して、当寺に御用の程は?」
「実はその――さる人から教えられましたところによりますと、御当寺は、見かけこそ、こんなにケチだが……内容に至っては、なかなか容易ならぬ由緒あるお寺と承りまして、それで、推参いたしたような次第でげす……」
と道庵が言いました。相手がこの寛容なる浪人でなければ、ここでハリ倒されてしまったかも知れない。見かけはケチなお寺だが……自分のことを言う場合にはよいが、先方に対してそれを言うのは失礼この上もないことである。ところが、教養があり、
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