だしさを、微笑しながら見送った青嵐は、炉前に戻って、暫《しばら》く茫然と炭を見つめておりました。
どうしたものか、さいぜん再三、庵寺の玄関の方で呼びかけた声は、もう聞えません。さては、呼びあぐんで、立帰ってしまったと見える。
日がたそがれる。
暫く炉炭を見つめていた青嵐は、やがて行燈《あんどん》を引寄せて火を入れたのですが、その火影をまた暫くぼんやりとながめていたが、近所隣りは静かなものです。
日はとっぷりと暮れた。
これから、秋の長夜がたのしめる。昼は釣をたのしみ、夜は燈に向って書を読むの快。それを存分にたんのうすべく戸締りをする前に、青嵐は外へ出ました。外は暗いけれども宵《よい》の口だから、もちろん、提灯、カンテラがなくとも歩ける。庭下駄をカラコロと穿《は》いて、中庭をめぐり、庵寺の方へと歩き出したのは、とにかく、これから秋夜読書の快味を満喫せんがために、一通り境内の垣を見守っておかなければならぬ。かなりに広い庭内のそぞろ歩きをはじめて、やがて、裏手から寺の門内を一通り見めぐり、玄関の近くまで来てみると、そこで一種異様な物音に、思わず足をとどめさせられました。
一種異様
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