ところまで来て、
「ああ、怖《こわ》――」
と、殿《しんがり》として後ろにやや離れていたお角さんを別にして、一行の者が往手《ゆくて》をのぞんで立ちすくんでしまいました。
 見れば、その松並木の松の根方や往来へ半ばかかったり、畷道へのめったり、甚《はなはだ》しいのは、往還の真中へ重なり合った、人間の死骸の山です。
 みんな斬られている。どこを、どう斬られているかわからないが、無慮五六人の屍骸は、眼通りに斬り斃《たお》されて散乱している。しかも、斬られたこれらの人体《にんてい》を見ると、後ろからついて来ている送りよた[#「よた」に傍点]者の種類とは違って、いずれも、れっきとした武士姿である。それも、それぞれ充分に身固めをして、しかも、いずれも白刃を抜いて手にかざしたり、取落したりしたまま、右のように散乱と斬り倒されている。
 斬られたには斬られたに相違ないが、やみやみと斬られたのではない。斬る方も、斬られる方も、充分覚悟の上で、おのおの死力を尽して戦った結果がこれなのだ。数えてみると、六人が物の見事に斬られてはいるが、斬ったのは何者。それはわからないが、斬られて斬られっ放しで、収容する者が
前へ 次へ
全551ページ中474ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング