なく、たとえ若干の時間の間でも、青天白日の下に曝《さら》し置くとは、無惨の至りではないか。

         百七十三

 お角さん一行の先陣は、体をおののかせ、目をつぶって、はせてその屍骸の前を通り抜けて、遥かの彼方《かなた》へ、やっと落着きました。
 殿をつとめたお角さんだけが、足をとどめて、じっとその斬られぶりを熟視していたのです。
 一方に小屋がけをして、番太のようなのが控えている。それに向って、お角さんがたずねました、
「どうしたのです、これはまあ、惨《むご》たらしいねえ、どうして早く取片づけてあげないの」
「へへえ」
と番太が、おぞましい声で返事をしました。それをも、お角さんは、煮えきらない返事だと思って、
「お見受け申したところ、立派なお武家たちじゃありませんか、何はどうあろうとも、早くこのなきがら[#「なきがら」に傍点]を取片づけて、人前に曝さないようにしてあげなけりゃ、恥ではありませんか」
とお角さんが、事のあまりに無情なると、緩慢なるとに憤りを発して、こう言いますと、番太は、この女の人からお叱言を食う筋はないというような面《かお》をして、
「へへえ――ところが、ど
前へ 次へ
全551ページ中475ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング