誰を、このお角さんをさ。いったい、お角さんに何の恨みがあるか知れないが、胡麻《ごま》の蠅めら[#「めら」に傍点]のするこたあ、江戸ッ子にゃわからねえのさ。笑わせやがらあ、今日はその手に乗らないよ。
 お角さんは、ついと立ち上って、一行の者に言いました、
「蠅虫が出て来てうるさいから、山王様へ行きましょうよ、山王様へ」

         百七十二

 お角さん一行が、急に毛氈《もうせん》を巻いてこの場を引払うと、南京バクチの一行が、つづいてまた盆蓙《ぼんござ》を引払って、一かたまりになって、ぶらりぶらりとお角さんの一行のあとをついて来る様子です。
 こいつら、いよいよあれだ、お角さんは、せせら笑いながら、ゾロゾロと予定のプログラムである山王様の方へ向って、ブラブラと進行をはじめますと、そうすると、右の安バクチうちの一行は、またブラリブラリと、お角さん一行のあとをつけてやって来る。
 ついて来やがるな、だが、お見受け申したところ、啖呵も切れないが、凄味《すごみ》も利《き》かない奴等だ、あいつらの器量では、せいぜい、いやがらせ[#「いやがらせ」に傍点]をしてみるくらいのもので、腕出し
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