る、だが、今の徳川旗本にはあの蛮勇がない、勝《かつ》のような滅法界の智者はいる、山岡鉄太郎がどうとか、松岡万《まつおかよろず》がこうとか、中条なにがしがああのと言うけれど、皆、分別臭い、問答無用でやっつける奴がいない、皆、利口者になり過ぎている、原始三河時代の向う見ずは一人もいないのだ。近藤勇に至ると、それらと類型を異にしている、人を殺そうと思えば、必ず殺す男だ」

         百六十三

 南条の言葉を聞いて、坂本も頷《うなず》きました。
「そいつは拙者も同感だ、三百年来の徳川、智者も、勇者も、相当にいないはずはなかろうが、要するにみな分別臭い、蛮勇がない、三河武士の蛮骨が骨抜きになってしまっている」
「近藤が用いられるのもそこだ、たとえばだ、彼は剣客として相当の腕は腕に相違ないが、それは当時二流と言いたいが、三流四流どころだろう、彼は天然理心流というあんまり知られない流名を学んで、市ヶ谷あたりに、ささやかな道場を構えていたものだが、それも、千葉や、桃井《もものい》や、斎藤に比ぶれば、月の前の蛍のようなものだ、はえないこと夥《おびただ》しいが、さて真剣と実戦に及んでみると、あれ
前へ 次へ
全551ページ中446ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング