譜代の家柄でもなんでもない、いわば只の農民なのだ」
「えッ、近藤は幕臣じゃないのか」
「幕臣と見るよりは、農民と見た方がよろしい、本来、徳川家には縁もゆかりもない人間なのだ」
と南条力が答えました。坂本は、近藤勇そのものの名声は聞いているが、その素姓《すじょう》はよく知らないらしい。南条は、かなり明細に近藤の素姓を知っているらしい。というのは、東方をあまねく探索しているうちに、各方面を洗えるだけは洗っている。近藤勇の素姓についても、少なくとも坂本らの知らざるところを知っているらしい。
「そうかなあ、おれは、幕府生え抜きの旗本だとばっかり信じていたよ、いったい、どこの生れなのだ」
 坂本から尋ねられて、南条は少々得意になり、
「あれは、武州多摩郡の出身だ」
「ははあ、武州か、じゃあ、江戸の圏内と言ってよかろう、幕臣とみなしてもいいじゃないか」
「江戸の幕臣とみなされることは、彼の名誉とするところじゃあるまい、むしろ、彼は武蔵の国生え抜きの土着の民ということを、本懐としているに相違ない。何となればだ、今の徳川の旗本にはあれだけの男を産み得られないのだ、智者はある、通人はある、アクは抜けてい
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