所にあらず――」
[#ここで字下げ終わり]
鬼は寓話の世界に棲《す》むが、狼は現実の里に出没して、たしかに人を食ったのである。怖るべきこと寧《むし》ろ、鬼以上である。
ここに鬼について、また一説があります。
オニという日本の古語は、隠れたるモノの意味で、仮りにその隠(オン)という字を当てはめてみたそれがオニに転訛し、鬼という漢字を当てはめることになったのである。角を生やしたり、虎の皮の褌《ふんどし》をさせたりすることは、ずっと後世のことで、ただ隠れたるモノが即ち鬼である。そうしてその時代にあっては、若い女というものはよく隠れたがるものであった。家にいる時でも、他人が見えると几帳《きちょう》の蔭などに隠れたりする。外出の時は、被衣《かつぎ》でもって面の見えないようにする。車に乗れば、簾で隠して人に見えないようにする。そこで、女を洒落《しゃれ》にオニ(隠《オン》)と言い、美しい女ほどオニになりたがる。オニ籠れりということは、美しい女がいるという平安朝の洒落であったということです。こうなってみると、むしろ鬼に食われたがる男が多いに相違ない。
仏兵助の親分は、早くも追手を引上げさせてし
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