らず」
[#ここで字下げ終わり]
と。そこで二人の旅行家が押返して、
[#ここから1字下げ]
「然らばいかなるものぞ」
[#ここで字下げ終わり]
と、つきつめてみると、右の若い男の返事に曰《いわ》く、
[#ここから1字下げ]
「犬の如くにして少し大なり」
[#ここで字下げ終わり]
 ここで、やや恰好がついて来たものだから、
[#ここから1字下げ]
「せい高く、口大なりや」
[#ここで字下げ終わり]
とたずねると、
[#ここから1字下げ]
「そのごとし」
[#ここで字下げ終わり]
という返事。
[#ここから1字下げ]
「さては狼にあらずや」
[#ここで字下げ終わり]
と言うに、
[#ここから1字下げ]
「狼ともいふと聞く」
[#ここで字下げ終わり]
という返事――これでようやく鬼の正体がわかってきた。この辺では、狼の一名を鬼というのではない、鬼の別名がすなわち狼であるということが、二人の旅行家にわかりました。
[#ここから1字下げ]
「殊に人を取食ふものゆゑに、此あたりにては、狼を鬼といふなるべし、古風なることなり、程過ぎて今に至れば、をかしき物語ともなりぬれど、其時の物あんじ、筆の及ぶ
前へ 次へ
全551ページ中438ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング