れぬるに何とや誠しやかにもなりて……」
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とある。市《いち》に三虎をさえ出すことがある。荒野の人々に三鬼が打出されてみると、南渓子、養軒子も少々気味が悪くなったらしく、額をあつめて語り合いました。
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「養軒、何とか思へる、詞《ことば》もあやし、殊に日足もたけぬと見ゆ、雨なほそぼ降りて、けしきも心細し、さのみ行きいそぐべきにもあらず、人里に遠ざかりなばせんかたもあるまじ、猶《なほ》くはしく尋ね問ひて鬼のこと言はば、今夜は此里に宿りなんと言へば、養軒も同意して、それより家ごとに入りて尋ね問ふに、口々に鬼のこと言うて舌をふるはして恐る――」
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 こうなってみると、さしもの南渓子《なんけいし》も、養軒子も、ようやく面の色が変ってきました。
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「扨《さて》はそらごとにあらじ、古郷《ふるさと》を出て三百里に及べば、かかる奇異のことにも逢ふ事ぞ、さらば宿り求めんとて、あなたこなた宿を請ひて、やうやう六十に余れる老婆と、二十四五ばかりなる男と住む家に宿りぬ」
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 南渓子も、養軒子も、相当
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