ぜざることなり、其鬼は青鬼か赤鬼か、犢鼻褌《ふんどし》は古きや新しきやなど嘲り戯れつつ……」
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ところが、南渓子も、養軒子も、ほどなくこの嘲弄侮慢《ちょうろうぶまん》からさめて、自身の面《かお》が、青鬼よりも青くならざるを得ざる事体に進んで行ったのは、なんとも笑止千万のことどもであります。南渓子は紀行文の中へ次の如く書きつづけております。
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「暫く来てなほ時刻のおぼつかなければ、あやしのわら屋に入りて、日あるうちに向ふの宿までゆき着くべしやと問ふに、此あるじもおどろきし体にて、旅の人は不敵のことを宣《のたま》ふものかな、此先はかばかり鬼多きを、いかにして無事に行過ぎ玉はんや、きのふも此里の八太郎食はれたり、けふも隣村の九郎助取られたり、あなおそろしと言ひて、時刻のことは答へもせず」
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南渓子、養軒子は、ここでもまた充分の冷嘲気分から醒《さ》めることができません。
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「同じやうに人をおどろかすものかなと笑ひて出でて又人に問ふに、又鬼のこと言ふ、あやしくもなほをかしけれども、三人まで同じやうに恐
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