れて逃げて来た馬子がある。残された馬と共にその鬼と闘っているという旅の者と、ここから応援に繰出した新手の者とが、鬼と闘って、負けるか勝つか知らないが、とにかく、最近にその消息がここへ齎《もたら》されねばならぬことになっている。
 ソレ、人声がやかましく近づいて来た。どっちみち、こうしてはいられない。

         百五十七

 七兵衛は心得て、蒲団《ふとん》の中ですっかり足ごしらえをしました。
 そうして、あたり近所を見廻すと、粗末ながら廻し合羽がある。菅笠《すげがさ》が壁にかけてある。七兵衛はそれを取外《とりはず》しました。時にとっての暫しの借用――という心で、前に積み重ねて置いて、なお蒲団を被《かぶ》って、深く寝るというよりは、隠れるの姿勢におりました。
 そうすると、どやどやと夥《おびただ》しい物騒がしさで一行が、この家に戻って来たのです。
 戸があく、土間がごった返す、炉辺がにわかに動揺《うご》めいてきました。十余人が一時に侵入して来たのです。
 七兵衛は心得きって、いざといえばこの裏戸を蹴破って走り出す用意万端ととのえていながら、なおじっと辛抱して、混入して来た一行の言
前へ 次へ
全551ページ中429ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング