助、浜田廉、宗形直蔵というような人たちが、否、黒塚は決して陸前の名取郡ではない、岩代の安達郡であると考証したものである。これには、さすがの喜田博士も参って、神妙に兜を脱いでいる。小倉氏のような隠れたる学者の存在は光であるが、これに対して、神妙に兜を脱いだ喜田博士にも学者らしい率直さを見る。
 そういうような次第だから、仙台からは数百里を隔てた武蔵野の中の貧家に生れて、よし、盗みの方にかけては博士以上の天才とはいえ、学問としては、古状揃えか、村名づくし程度以上に出でない七兵衛が、黒塚の所在に錯覚を起したからとて、その無学を笑うのは、笑う方が間違っている。
 なんにしても七兵衛は、奥州へ来て、広い原をやみくもに歩かせられて、それが一途《いちず》に安達ヶ原であることに心得ていた今までの錯覚を、ここで清算し、その安達ヶ原は当然、仙台より西の部分にあって、自分がとうの昔に卒業している。現に仙台以北、南部領の地点へ足を踏み込んでいる自分の周囲が、安達ヶ原であり得ないことだけは夢から醒《さ》めたが、さて鬼の儀はどうなる。鬼の実在は、すでに第三者の口から確実に証明されているのだ。現に、野原から鬼に襲わ
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