語挙動に耳を聳《そばだ》てている。
聞いていると、二人三人、怪我をしたものがあるにはあるらしい。だが、喰われた人はない。ただ、馬が、馬が――というのを聞くと、馬だけは犠牲になってしまったようでもある。
旅の人も無事らしい。それを労《いたわ》る若い者の声、村人の口々に騒ぐ声、土音|拗音《ようおん》でよくわからないが、鬼を、鬼を――という罵《ののし》り声を聞いていると、どうも、鬼を生捕ってでも来たものでもあるらしい。そうでなければ、鬼を退治して、その死体をでも引摺り込んで来たとしか思われない。
鬼を捕えて来たのか、そりゃあ大したことだ、生きた鬼を見てやりたい!
七兵衛も、この際とはいえ、これには全く好奇心を動かさざるを得ませんでした。
果してこの世に、鬼なんぞというものがあるのか。あればこそだ。現に、それをここへつかまえて来ているというではないか。見たいものだなア、一目見て置きたいものだなア――と焦《あせ》ってみたが、ここで飛び出すのはあぶない。鬼でさえ組みとめた連中の中へ、いくらなんでも縄抜けのこの身は出せない。もう少し辛抱したらば、或いは要領よくそれを見届けて脱け出すことがで
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