来ている。
それから、難なく渡しを渡って、またこうして走りつづけているうちに、この安達ヶ原へ紛れ込んだのだが、東西南北、遠近高低、すべて無茶苦茶だが、足に覚えがあるによって、ちょっとあれから、こうと、何里どちらへ走って、何里こちらへ逃げた。おおよその見当はつくにはつく。せめて一枚の絵図面でもあれば、ここでこうしてひろげて見るうちに、これからの身の振り方もきまるのだが、絵図面どころではない、命一つをやっと持ち出したようなものだ。ただ、この際、仙台を起点としての自分の足心で標準を定めてみるばかりだ、と七兵衛は、自分の走った程度と、方角を、頭の中へ縦横に線を引いてみて、現在の地点が、仙台からおおよそどの方角に、どのくらい離れているということの測定にかかってみると、突然、
「なあーんだ、ぱかばかしい、ここは安達ヶ原でも、黒塚でもありゃしねえ」
と自ら嘲笑《あざわら》いました。
どうして、どうして、安達の黒塚なんぞは、もう疾《と》うの昔のことだ――ここは黒塚より何十里、何百里も奥へ進んでいる。奥州へ来て、広い原さえ見れば安達ヶ原だと思い、一つ家《や》がありさえすれば鬼の棲家《すみか》だと想像
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