(内高百八十万石)のお城は豪勢なものだ。豪勢なものではあるが、おれだって、これで、ほかならぬ天下の江戸城の千枚分銅に目をかけたことのある武州青梅の裏宿の七兵衛だ――という、つまらないところの気負いが萌《きざ》してきたのが、持って生れた病気です。
 その次には、高橋玉蕉《たかはしぎょくしょう》という美人の女学者の家へ忍び込んで見ると、そこの客となっていた田山白雲氏が、しきりに伊達家秘蔵の赤穂義士の書き物のことを話をし、盛んに見たがっている。いくら見たくても、あればっかりは拝見が叶うまいと、閨秀美人《けいしゅうびじん》と豪傑画家とが、しきりに歎息しているのを盗み聴いて、そうしてまたしても、むらむらと敵愾心《てきがいしん》が起って来た。それほど見たいものなら、お城内のお許しがなくとも、この七兵衛が見せて上げる――
 そこで、青葉城の御宝蔵へ、仁木弾正《にっきだんじょう》を決め込んで、その赤穂義士とやらの書き物を、ともかく九分九厘まで持ち出したのだ。
 いや、間違った、間違った、あれは赤穂義士の書き物というのは、こっちの聞誤りで、実は、王羲之《おうぎし》といって、支那で第一等の手書《てかき》の
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