十五の行倒人《ゆきだおれ》を見たが、その後では数えきれないから飛び越えて歩いた。あるところでは、一つに二百五十人ずつ入れる穴を掘って、次から次と餓死人を埋めていった。一つの領内で、七万八万の餓死人を出しているのは珍しくない。旅人が家を叩いて見ると、一家みんな餓え死んで、年寄ばかりがひとり虫の息になっている。水を飲もうと井戸に行ったが、ハネ釣瓶《つるべ》が動かない。のぞいて見ると、井戸の中が餓死の人でいっぱいであった――
なんというすさまじい饑饉の物語をよく聞かされた。
それを思うと、この食物ですら、あだにはならない。眼をつぶってかき込んだが、食べてみるとすき腹へ相当に納まる。
七兵衛は、無断で、できるだけの御馳走にあずかってしまい、さてこれから追手のかかっている身の振り方だが、こうなってみると、無暗にあわてて走ってみるのも気が利《き》かない。休めるうちに休めるだけ休んで置くがよい。それには――と七兵衛は、若衆《わかいしゅ》が飛び出した次の間に、まだ蒲団《ふとん》がそのまま敷きっぱなしにされてあるのに眼をくれました。
百五十四
そこで七兵衛は、草鞋《わらじ》
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