》く若いのを集めて置いて、万一に備える――とまで七兵衛がたどりついているうちに、ハッと気の廻ったことがあります。
百五十三
七兵衛がハッと気を廻したのは、我ながら抜かったり、鬼に喰われることばっかり考えて、人に追われる身を考えなかった。
この現実を夢物語でないとしたならば、いま馬を雇って野を走らせて来たという旅の人は、このおれを追いかけて来る仙台領の追手ではないか。
そうだそうだ、まさにそうだ。それに違いないのだ。
仙台では、仏兵助《ほとけひょうすけ》という親分の手で、一旦おれは捕われたのだが、岩切でそれを縄抜けをして、ここまで落ちのびたおれなのだ。仏兵助ともいわれようものが、あのままで手を引くはずはない。
今、原を馬で追いかけて、途中鬼に捕まって、ただいま奮闘中だというその旅の人は、おれの身の上にかかる追手なのだ。
そう感づいてみると七兵衛は、
「仙台の仏兵助のために、おれは安達の黒塚へ追いこまれた、仏と鬼を両方から敵に持っちゃあたまらない」
こう言って苦笑いをしたが、事実は存外落着いたもので、
「さあ、今となって、だいぶ腹がすいてきたぞい」
勝
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