れて、馬さ喰われちゃったでなっし、客人のこと、どうなったかわからねえが、夢中になって逃げて来たぞう」
「そいつは、菊どん、いがねえ、この夜中に、馬なんぞ出しなさるがいがねえ」
「でも、仙台領からの頼みで、どうでも馬さ一匹頼んで飛ばさにゃならねえというお客様がござってなっし」
「そいつぁ、どうも」
「で、鬼さ出るちうて断わり申しただが、鬼さ出ようと、蛇《じゃ》さ出ようと、大切の罪人を仙台領から追いこんだのだなっし、仙台様と南部様の御威勢で、鬼が怖《こわ》いということあるかと、お客人の鼻息がめっぽう荒いもんでなっし」
「そうかや、そいつぁ、どうもならねえなっし」
「夜中に、馬さ出すと、案《あん》の定《じょう》、大っ原で鬼が出やんした――わっしゃ命からがら逃げて来やしたが、お客人のこたあ、どうなったかわからねえなっし」
「それじゃ、どうなったかわからねえで済ましちゃいられねえぞ、客人さ怪我あらせちゃあ申しわけがあるめえなっし」
「そのお客人さ、道中差を抜いて、鬼さきってやしたがね――なかなかお客人も強い人でがんした」
「なんしろ、こうしちゃいられねえ、人を集めて、お迎《むけ》えに行ってみざあ
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