点の火を認めました。
火のあるところに人があり、文明がある、という哲理は、前に田山白雲の場合にも書きました。七兵衛は、その敏感な眼を以て、数町か、数里か、とにかく行手のある地点で一つの火光を認めてしまったものですから、七兵衛ほどの曲者も、
「占めた!」
と叫んで、その怪足力がまたはずみ[#「はずみ」に傍点]出したのはやむを得ません。
七兵衛の眼はあやまたず、たしかに一点の火光があり、その火光を洩《も》らすところの一つ家《や》がある!
だが、およそほかと違って、安達ヶ原の一軒家――見つけたことが幸か不幸かわかるまい。
百四十九
「そうだ、安達ヶ原の黒塚には鬼がいる!」
七兵衛ほどの代物《しろもの》だが、それと感づいた時に一時は、たじろぎました。
安達ヶ原といえば、誰だって「一つ家」を思い出さないものはあるまいが、「一つ家」を思い出す限り、その「一つ家」の中に棲《す》んでいるものが「鬼」でなくて何だ。
鬼は有難くないな。
とうとう、安達ヶ原へ迷いこんで、鬼の籠《こも》る一つ家へ追い込まれてしまった。
有難くねえな。
七兵衛は苦笑いをしてしまいました。
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